ヨタバナレビュー

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【完成されたライトノベル】キノの旅はなぜ長く愛されるのか?

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こんにちは、”よたヲ”です。

さて、第一回目は『キノの旅 the Beautiful World』をご紹介します。

※ネタバレありです。ただし、あとがきはいくら探してもありません。

本作は普段読書に慣れていない方にこそおすすめです。
何を隠そう、私も初めて読んだのは小学生の時です。

そのときはただただ衝撃でした。
なんかアニメっぽい絵はついてるけどマンガとは違う。かといって一般文芸とも児童書とも違う。
でも、なんか分かんないけどすごく面白い。とっつきやすいのになぜかクセがあって、それがまたたまらない。
そんな感じで気付いたらはまっていました。

そして実はこれが私のライトノベル初体験だったのです。

それから17年が経ちましたが、いまだに新刊が発行されています。おまけに今年は再アニメ化までされるという。
まるでファストフードの様に軽く消費されるのが運命であるラノベ界でこれほど長寿なシリーズは稀です。もう、奇跡と言っていいと思います。

さて、ではその内容はというと、主人公キノとその相棒のモトラド(バイク。なぜか主人公のだけ喋る)のエルメスが色々な国に3日間だけ滞在しながら世界を旅するというものです。

いわゆる連作短編集です。

しかし、あえて一言で言い表すと、この本は「現代の寓話」です。
現実の社会問題、歴史的事件、そういうものを強烈に匂わせた「国」がたくさん出てきます。そしてそれらをパースエーダー(銃。ちなみに和訳すると説得者という意味になる)を両手に観光してまわっているのがキノという主人公なのです。

この主人公キノ。実は女性で、年齢も若いから少女といっていいと思いますが、べらぼうに腕の立つガンマンです。おまけに容赦もなくて、道中襲ってきた無頼の輩を次々に血祭りにあげていきます。

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わりと描写がえげつないので、スピーシーズ2とかの頭吹っ飛ばす描写とかが苦手な人はきついかも。マジであんな感じなんです。
スピーシーズ2 [DVD]

キノはいつも飄々としていて、正義や主義主張は唱えませんが身を守るためには手段を択ばない。そんなクールな主人公です。
だから個性が弱いかというとそうではないところがまたすごい所なんですが、つまり寓話の語り部というか読者の目となって世界を見せてくれる存在です。

さらに、その相棒のエルメスが横合いから合いの手を入れ、わりとヘビーだったりシュールだったりするお話を毎度軽い口当たりにしてしめてくれます。

そして、本作あとがきにもあるように(ちゃんとあとがきが読めるのは一巻だけ!)各話は時系列的にバラバラで、話ごとに完結するようになっています。

つまり、手に取りやすく(どこから読んでも良い)、箸をおきやすい(続きから読みやすい)のが、本作がライトノベルたる由縁の一つです。
個人的にはこれこそがライトノベルというものだと思います。
読書が苦手な人の一番の原因は、ちゃんと読み終わらせられるか自信がないってことだと思うんです。
いつ果てるとも知れぬ物語をちゃんと最後まで読み切れるか分からないから読むのを躊躇してしまう。だから余計に読書から離れてしまう。

結局、苦手意識の裏には成功したことがないという過去の実績に対する負い目があるんだろうなと思います。

だから連作短編という形式がこの本の敷居をとても下げてくれているのです(シリアスなお話ばかりなのにマイルドに読めるのは二人のやりとりの軽妙さのおかげだけじゃない!)。

さて、そんな本作の魅力の半分を担うのが、黒星紅白さん(サモンナイトシリーズの絵師さん)のイラストです。

サモンナイト

サモンナイト


この絵を見て一発でピンっときた方はすぐに読むべきです。
それくらい、世界観とイラストが絶妙にマッチしています。

黒星紅白画集 noir

このイラストとお話のマッチングで私は読まされました。

この作品が素晴らしいのはそのイラストのみでは完結していないということなのです。

イラストの魅力ばかりが浮きすぎることなく、お話を実際に読まないとそのイラストの場面や人物の表情の意味が分からないようになっています。

そういうことをさらりとやっています。

でも、それでいてしっかりと世界観は伝わってきます。

さて、例えば一巻のこの挿絵を見てください。
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柔和にほほ笑む白い金髪の麗人とキノが一緒に描かれています。

一見、とても慎ましい光景なのですが、本編を読むと、この絵の印象がくるっと反転します。

実はこの女性。ある国に夫婦で行った帰りで、その夫は〇〇されてしまいました。

そしてこの場面の女性はキノにこう言っているのです。

「素晴らしい国でしたわ。キノさんもぜひ訪れるべきよ」

なぜ、そんなことを言ったのでしょう(しかも笑顔で)。
ずしーんときました。当時は小学生でしたから。想像してみても、この女性の気持ちは分かりませんでした。今も分からないです。

こんな感じでさらりとライトに読めるのに、なぜか後味は少しヘビー。でも、クセになる。
それが「キノの旅」です。

さて、シリーズの説明は以上です。

次回は一巻のお話を一つ一つ語ってみたいと思います。

おそまつさまでした。

(文:文月)