ヨタバナレビュー

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【残穢】夏といえば、コレ!本当に怖いはなし見つけました。

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おはようございます。よたヲです。
朝から怖いお話について紹介していきます。

近頃は、日本のホラーが夏の風物詩からオールシーズンレジャーに変わって久しいです。
振り返ってみれば、それは貞子から始まりました。

映画『リング』のヒット、そして『呪怨』のメジャー化に伴い、いつしか柳の幽霊はサダコやカヤコのような人間を襲うモンスターとなりました。

それらは、確かに怖いです。
でも、それはお化け屋敷やジェットコースターのような一過性の怖さです。

観客は呪いのビデオを本当に観たわけではないし、ましてや呪いの家に一歩足を踏み入れたわけでもありません。だから観客は別な世界のお話として、いつも安全圏から恐怖を眺め、時には身を乗り出して物語に没頭し、終わればまた安全な現実へと帰還できます。

では、一方、ホラー小説はどうでしょうか。

原作『リング』は大変秀逸なホラー作品です(勿論、映画も)。斬新だったのはミステリー仕立てのストーリーと作品自体に壮大なテーマが内包されている点でしょうか。ただ、それまでホラーと呼ばれていたジャンル内に当てはまるのかは正直分かりません。
しかし、読書中感じていた背筋の凍り付くような感覚は間違いなくホラーの醍醐味そのものでした。

しかし、それはあくまで“型破り”な面白さなのです。

リング

リング


『リング』を皮切りに、その後、角川のホラー小説のレーベルからはたくさんの傑作ホラーが生み出されます。

黒い家 (角川ホラー文庫)
ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)
夜市 (角川ホラー文庫)

これらはどれもおすすめのホラー小説です。長いのにあっという間、もしくは短いのに心にぐさっと刺さる秀作揃いです。

しかし、ここのところホラー小説といえば“人間の暗部”を描いたスリラーが非常に多くなりました。それかもしくはモンスターホラーと化した幽霊小説です。

どれも面白い。でも、それがホラーなのか。これでは世の中『エイリアン』か『サイコ』の派生作品ばかりになってしまわないか。

そんなもやもやがありました。

しかし、ついに見つけました。

幽霊も殺人鬼も出てこなくて、しかも真夏にぴったりなホラー小説を。

それが今回ご紹介する『残穢です。

残穢 (新潮文庫)

残穢 (新潮文庫)


幽霊は出てこないからこそ怖いもの

※以下、ネタバレしかありません。

物語の主人公はとある女性の小説家です。

一昔前までは少女向きのライトノベル(主に怪談物)を書いていて、そのときあとがきに書いた怖い話募集という言葉が発端となって、今でも読者からの怪談話の投稿があります。

……ところで、この『残穢』の前に『鬼談百景』という短編集が出版されています。

鬼談百景 (角川文庫)

鬼談百景 (角川文庫)


いわゆる百物語です。そして、百物語のルールに則ったかのように、99話の怪談が収録されています。
百物語 - Wikipedia

そして、その後に出た『残穢』が、実はちょうど100話目になるという形式なのです。
なぜこのような凝った出版をしたのでしょう。それは、この『残穢』を読み終わったときに分かります。

物語の冒頭、主人公の“私”は久保さんという読者からの投書である相談を持ち掛けられます。そこにはある怪談が綴られていました。

岡谷マンション204号室の怪


久保さんは編集プロダクションのライターで、その日は持ち帰り仕事をしていて夜遅くまで起きていた。
部屋の間取りはフローリング床のダイニングキッチンと畳の和室からなる典型的な1LDK。
彼女はいつも和室を背にして机に向かい仕事をしている。
それは引っ越してからまだ日も浅く、やっと新し生活に慣れてきたそんな矢先の出来事だった。
背後から、さっ、とまるで箒が畳を掃くような音がした。
それだけなら気のせいと済ませられたかもしれない。しかし、その音は断続的に一定のリズムで聞こえてくる。
彼女の脳裏に、ふと疲れた顔の中年女性が力なく箒を右に左に振っている光景が浮かんだ。
その後も深夜に仕事をしていると、同じようにその音が聞こえた。
しかも気になって和室の方を振り返るとその音は止んでしまう。そしてまた仕事に集中し始めると、さっ、という音が聞こえだす。
そこである日の事、久保さんは音がしているときに思い切って振り返ってみる事にした。
そして彼女は畳の上を何かが這うのを見てしまった。

「平たい布のように見えました。……着物の帯じゃないかと思うんですけど」

後に確認したところによると、それはいわゆる金襴緞子の帯で、ハレの日に使うものだった。

晴れ着に身を包んだ女性が、首を吊り、揺れている。そして垂れ下がった帯が左右に揺れる。
さっ、さっ、と床を擦りながら。

その怪談を読んだとき、“私”は既視感を覚えました。
そして、自分当ての手紙を整理しているときにそれを見つけます。それは屋嶋という主婦の人からの手紙で、久保さんの3年前に送られてきたものでした。

岡谷マンション401号室の怪


屋嶋さんは1児の母で、越して以来、2歳になる娘の様子が少しおかしいという。
娘は時折、何もない天井の方を指さして、「ブランコ」と言うのだそうだ。
しかも、屋嶋さん自身も、床を掃くような、さーっ、という音を聞くのだという。


“私”は久保さんにメールを送りました。

「401号室に、屋嶋さんという方が住んでいませんか?」

これが全ての始まりでした。

前住者の怪


久保さんはその後、マンションの住居者が次々と出て行っている事に気が付きます。
久保さんが401号室を訪ねてみると、次の住人にかわっていて、そこから分かったのは、屋嶋さんが住んでいたのはほんの9か月あまりだったということでした。

そして、あるとき自分の部屋の前住者の話を聞いてしまいます。

前住者、梶川氏は近くの家電量販店で働く若者だった。
商品知識が豊富で真面目、人柄も誠実という評価だったがあるときから急にそれまでの勤務態度から一変して無気力で怠惰になった。
合間の時間にぼーっとすることが多くなり、次第にミスも多くなった。
見兼ねた上司が叱責したがそれでも改善されず、無断欠勤を繰り返すようになり、ついには辞職した。
それから別なアパートに引っ越し、そこで首つり自殺を遂げた。
理由は不明だという。
しかし、そのアパートの管理人の話によると、以前住んでいたところでは夜泣きに苦しんでいたという。入居時に幼い子供が居ないことを確認し、安堵していたというのだ。
しかも、管理人の女性によれば彼の死の前日不思議な夢を見たのだという。
管理人夫妻が寝室で寝ていると、庭に面した窓が、コツコツ、と音を立てた。目を覚ますと、そこに梶川氏とみられる人影がある。

「何かあったの?」

声を掛けても、梶川氏は何も答えなかった。ただ、「申し訳ありません」「すみません」と小声でぶつぶつ繰り返すだけ。
そこで管理人が窓を開けると、そこに彼の姿はなかった。
そのときはっと目が覚めた。
気が付くと、管理人の女性はまだ布団の中だったのだ。
夢だったのかと思い、寝なおそうとしていると、今度は玄関の方から、コツコツ、と音がした。
気味悪く思いながらも、玄関に回ると、ガラス越しに梶川氏とみられる人影が見える。相変わらずぶつぶつと謝る彼に、管理人さんは明日にしてもらえないかと声を掛けた。すると、その影はすっと消えた。
翌朝、いつもより早く目が覚めた管理人は胸騒ぎから急いで梶川氏の部屋に向かうと、案の定、ドアには『御迷惑をおかけします』と書かれた紙が貼られ、中で梶川氏の変わり果てた遺体を発見した。

二人は調べを進めていくうちにある考えに行きつきました。

おかしいのは部屋ではなくて、このマンション自体なのではないだろうか。

そこで、二人はマンションが建つ以前の出来事を調べ始めます。

前世紀について、小井戸さんについて....

マンションが建つ以前、この土地には4軒の家があったことが分かりました。
その同じ敷地内に小井戸という人が住んでいました。

当時を知る益子という人物曰く、小井戸さんは近所でも評判の変わった人で、今でいうゴミ屋敷に住んでいた。
ある夏の日、あまりにも匂いが酷いからという理由で、益子さんは一人、町内を代表して小井戸さんの家を訪れた。
家の中は酷い有様で、ごみがあらゆる隙間という隙間(床下も)に詰め込まれ、足の踏み場などない。
しかもその匂いは、家に入れば余計に酷くなるような始末。
しかし、その匂いの先で彼が見つけたのは小井戸さんの腐乱した死体だったのだ。

 

黒石邸の怪


黒石さんの家は岡谷マンションの向かいの一軒家だった。
現在は引っ越し新しい住居で暮らしている。
引っ越した直接の原因はない。
ただ、彼女の身に不吉な出来事が起きていたことも事実だった。
まずは悪戯電話から始まった。
相手は無言で、とくに危害を加えられたわけではなかったが気味が悪かった。
次に家に一人で居るときや娘を寝かしつけてほっと休んでいるときに、不自然な音を聞くようになった。
ミシリ、と床を踏むような音や、カタン、と物がぶつかる音がする。
ある日、迷いながらも黒石さんは立ち上がってその音のする方へ向かった。そうして音を辿って隣の部屋のドアに耳を当てた。ひんやりとした感触がこめかみに触れ、頬が当たる。
じっと耳を澄ますと、そのとき、もう一方の耳に、はあっ、と男の息がかかった。

貸家となったその家ではさらに次の住居者が髪の長い女の顔を見てしまうなどの怪異に見舞われた。

しかもそれは、首を吊った女性だったという。

根本家の婆さん

「根本さんのところは、奥さんが呆けちゃってねえ。一日中、家の中をうろうろ歩き廻ったり、床下に猫がいるんだって言い張って、縁の下に餌を投げ込んだりするんです。いもしないのに、飼ってるつもりだったんですねえ。廊下や縁側にこう——べたっと伏せて、よく話し込んでいたみたいですよ。倒れたのかと思って駈け寄ったら、ぶつぶつ話をしている。ミィちゃん、ミィちゃん、なんて呼びかけながらね」

飯田家の消息

岡谷団地を出た飯田家の消息が判明した。
彼らは別な土地で無理心中を遂げていたのだ。
妻が血まみれの子供と共に外に飛び出し、事件が発覚した。
小火があり、家の中から夫とみられる男性の焼死体が見つかった。
奥さんと子供を刺したのはこの男性とみられる。


調べを進めていく中で、様々な出来事が浮かんできました。
ポルターガイストじみた家、ゴミ屋敷の主人の死、呆けた老人、首を吊った女の目撃談。そして、飯田家の惨事。
一見すると、それらにはとくに共通点は見受けられませんでした。
しかし、二人は遂に一つの手がかりに行きつきます。

過去、この土地で自殺した人が居たことが判明したのです。

 

高度経済成長期、高野家の怪


小井戸家以前の住居者、
高野さんは町の鋳物工場に勤める社員だった。
そこの娘が近所の呉服屋の息子に嫁いだ。
披露宴が近所料亭で行われ、その日は嫁を相手の家に送り、夫婦二人は家に帰った。
奥さんは朝から喜色満面で近所廻りしたほど娘を嫁に出せたことが嬉しかった様子だった。
ところが、家に帰ると、奥さんはすうっと一人奥の部屋に引っ込んでしまった。
着替えているのだろう。
そう思った夫は一人で居間に落ち着いていた。
しかしいつまで経っても奥さんは帰ってこない。
気になって見に行ってみると、そこには晴れ着のまま縊死している妻の姿があったという。

さらに、

この奥さんは日ごろ、赤ん坊の泣き声に悩まされていたともいう。
近所の古い馴染みだった女性が言うには、彼女は家のどこかから赤ん坊の声がする、もっと言えば誰かが自分に向かってその声をわざわざ聴かせているんだと言って、半ば狂ったようになっていた。
そしてその被害妄想が生んだ疑心暗鬼から、娘の披露宴で粗相をしてしまう。
彼女が自死したのはその夜の事だったのだ。

赤ん坊の声は、大勢で、しかも「湧いて」出てくるようだったという。


二人は遂に決定的な手がかりを見つけました。

久保さんを含め、黒石邸で目撃された女性はこの高野夫人に違いありませんでした。

しかし、ここでさらなる謎と、手ずから零れ落ちた伏線が残ります。

“赤ん坊の泣き声”

新たな謎と手がかりを持って、二人は戦後間もない頃にまでさかのぼります。
  

戦後期、中村家の事件

マンション以前の住宅、それよりもさらに前には長屋があったことがわかりました。

そこに中村という夫妻が住んでいましたが、当時、中村夫人はある事件で逮捕されていました。それは嬰児殺しです。

彼女は転居先でも同様の事件を起こしていました。

長屋の怪

その長屋はある工場の社宅で、幽霊が出ることで有名だった。工場では事故がつきもので、時には死人が出ることも珍しくはなかった。
その死んだ先輩が出るとか、死んだ婆さんや、果ては赤ん坊が出るという噂まであったという。

「そう。床下を這いまわっててさ、壁や床から出てくるんだって」

そして、怪談は工場にも及ぶ。

「変な言い方になるけど、地面の下で風が吹いてるみたいな音だったな。薄気味の悪い音だったねえ」

工場に泊まった男性はそんな妙な音を聞いたという。そして、

「大勢の人間が呻いているような声だった。あれにはぞっとしたね」


ここで、また一つの手がかりが得られました。
高野夫人を死に追いやったとされる“赤ん坊の声”の怪はこの中村夫人の嬰児殺しが元なのではないだろうか。

“私”は怪談の文法に則って、そのように推測しました。 しかし、またここで一つの謎が提示されてしまいます。

では、工場の“呻き声”の怪は何なのでしょうか。そして、二人はさらに時代と場所をさかのぼり、調査を続けていきます。

しかし、その糸を辿った先にあったのは底知れぬ闇と、土地に残った穢れが及ぼす不吉そのものだったのです。

あなたの家はだいじょうぶですか?


如何でしたか。

今回、解説したのは物語の半分程度です。
その先には、まだまだ身の毛もよだつ鬼畜の所業や、因縁深い事件の数々が待っています。
そして最終的には“奥山怪談”という北九州で有名とされる怪談へと行きつくのです。

始めはちょっと気味の悪い現象。その小さな点から始まった物語は、次第に、似た話や過去の話という新たな点へと線を繋いでいきます。そして、その線は一つに収斂するどころかどんどん放射状に広がってしまうのです。

この物語は“奥山怪談”で終了しますが、まだまだその先にも深い闇があることが想像できてしまいます。

そして、この疑似ノンフィクションともとれる物語が終わると、その線は本を飛び出して、自分の住む土地へと繋がっていくのです。

私が今住んでいるアパートの近くには公園があります。綺麗な池があり、自然豊かな美しい公園です。
しかし、どこかうら寂しい雰囲気があり、お寺の晩鐘が鳴ると一際気味の悪い場所になります。

実は以前、そこには公衆便所が備えられていました。
しかし、いつの日かそれは取り払われてしまったそうです。

理由は、そこで自殺者が出たからです。
自殺した人はこの土地とまったく縁のない人物だったようですが、再発防止の為にその公衆便所は撤去されたのだ聞きました。

さて、私が住むこの土地には戦災による大火事、幕末のとある惨事の言い伝えが残っています。

戦災では市全体が焼け、たくさんの死傷者が出ました。

そして、幕末の騒乱の中で、藩内では凄惨な内部抗争で沢山の人が処刑や私刑の憂き目にあったと聞きます。

市内の公園や空き地、ぽっかりと空いたような茂み。そうした生産性の低い土地は元々処刑場や死体置き場だったなどという不吉な話まで残っています。

もしかしたら、あの寂しい雰囲気の公園も、昔は——。

そんな空想をしていたら、途端に背筋が寒くなりました。
よおく考えたら、今住んでいるこのアパートだって、その前に何が在ったのか、または何が遭ったのか私は知らないのです。

“何となく怖い”

そんな風に感じる場所があなたの身の回りにもしもあったなら、ご注意ください。
もしかしたら、それは恐ろしく暗くて深い闇に通じる糸の端緒かもしれません。

百物語では100話語り終えると本当に怪異に出逢うのだそうです。
その100話目に当たる本書を読み終わったとき、あなたは何を見ることになるのでしょう。

それでは、皆さん。まだまだ暑い日が続きますが、お元気で。